夫の断食道場ログ ー変性意識に全く興味がないひととの円満会話術

大型連休にふとしたきっかけから、夫を4泊5日の断食道場に送り込む、という事をした。
送り込むといっても、体の具合が悪く、万策尽き、一縷の望みで断食に賭けたとかではない。

最近の家族の健康をいろいろ考えてみた答えだった。

ちょいぽちゃの夫のダイエット諸々に埒があかないように見えていたし、彼の持病のアトピー性皮膚炎もそんなに良くなっている感じもしないし、というのが主な理由。
また夫の健康を思いやることとは別に、私自身の精神衛生を保つため手を打ってもいい時期が来ていた。それは単純に季節性の何かで「ゴールデンウイークは家族でずっといると酷い喧嘩をする」という、夫と連れ添う前の生活の何かしらのトラウマがあって、そのアラートが頭の中を埋め尽くして大変な感じになっていたので、手を打たなきゃいけないという強迫観念みたいなものが押し寄せて来てそれに従った。だから特別夫に何かに不満が爆発しそうだったからそうした、というわけでは無い。
実際、夫がいない2LDKのマンションはガランとしていて、一瞬寂しくはあったけどすぐそれは忘れた。子どもと海に行ったり公園で遊んだりしていると、別にワンオペ育児の苦しみと言うよりも「息子とずっとデート」みたいな蜜月を楽しんだだけで、「これは三角関係の恋愛が着地したのに近い状態なのか」と思う位に気持ちは非常にスッキリしていた。
なので、ほとんど夫のことは忘れて1日目が経過。無事到着した事だけ確認した。2日目は気が抜けてLINEスタンプで食べ物の図柄のものを無自覚で送りつけ、後で懺悔するなど。3日目はさらに気が抜けて、グループチャットで食べ物のあれ食ったこれ食った写真を夫と関係ない文脈でチャットメンバーに送りあっているなど。ログを辿ると私の悪妻ぶりが目につく。

子どもは子どもで「だんじきどーじょーはいつおわるの?」と淋しそうにしていて、「とーちゃん帰って来てからごはん食べ始めるんだ!」といってきかない日もあったくらいで、夫への執着心と愛情の深さは、逆に私の方が恥じ入ってしまうくらいだった。

 

今回夫を向かわせたのは神奈川県の温泉のある保養施設。一定断食用の人参ジュースの提供、健康診断をするスタッフ、医療との連携などあるが、ヨガ道者が説教をしたり、瞑想や運動のプログラムが組んである施設ではない。値段も一泊1万円以内で、予約も取りやすく、スピリチャルにはなんの興味もない夫にとっては逆にハードルを下げたようだ。
とにかく朝起きて、個室のドアの前に置かれた人参ジュースを飲んで、昼間は読書をし、お散歩コースを徘徊し、帰って来て昼寝をして、定刻にまた人参ジュースを飲んだりして午睡して、目覚めたらまた読書といった生活だったらしい。夫から送られて来た写真は最終日のおかゆだけで、それ以外は夫の方から発信は殆んど何もなかった。送ったLINEも既読にならないし、途中「死んでるのかな(笑)」と思ったくらいだ。

 

断食から帰った夫に数日ぶりで会った。確かにちょっとスッキリしている!聞くと3キロ痩せたそうだ。アトピーの調子も良くなっている。
夫がいない間に部屋の掃除をして、アトピーの為に日々パラパラとちらばる皮膚(いわゆる落屑(らくせつ)と呼ばれる粉状の皮膚の死骸)のベランダに落ちている分だけホウキで集めたら、フィルムケース一個ぶんくらいの量で、「もしあなたが帰ってこなかったらコレを遺骨というか遺皮膚として葬儀の場に提供しようと思っていた」と言ったら「ホラーですね。掃除ありがとう」と返事があり、(ああ元気ないつもの夫だ、無愛想で、それでいて選ぶ言葉が全部面白くて、心底癒されるわ)と安堵した。

夫は帰って来て終始機嫌がいい。基本的にそんなに気持ちに波があるタイプではないので当たり前といえば当たり前なんだが、断食から帰って来たばっかりにしては妙に俗っぽいというか、カジュアルというか、プリングルスやカマンベールチーズを頬張っている。よく体が受け付けるなとちょっと思っていた。なんかストイックな修羅場をくぐった感じがそれほどみてとれない。胃が受け付ける/受け付けないのレイヤーがちょっと怪しいのである。

そこは矢張り、私の勘も冴えていた。話をつめて聞くと、人参ジュースばっかりの生活に少し嫌気もさして来た2日目の夜中、別に禁止されているわけではないのでコンビニに行ったそうだ。そこで似たようなものならいいだろうと思って、スムージーという商品を買った、それに伴って食べ合わせたら絶対美味いだろう裂けるチーズも買っちゃったという事だった。

まあ、ちょっとした抜け出しはあったにせよ、デトックス効果としては一定体験できたようで、断食から20日目ほど経過したの今週に至っては「ジャンクフードが2食続くと、身体が真っ赤になる。添加物のせいかな。もう辞めよう」と口に出したりするようにもなって、口酸っぱい系で私が言ってることも一定学んでいるようなところがあり、コミュニケーションが楽になった。

 

なので、今回の断食道場は夫婦間の健康に関するコミュニケーションコストを大幅に下げたっていうのが一番の果実だった。

一定、覚醒感などの「変性意識に興味がある類のひと」が体験への興味を募らせるはずの断食道場。

その現場に「あなたも断食すべきよ」と、全く異なる思想を持ったひと(変性意識に興味がなさそうなひと)をエスコートしたいと目論んでいる人間は割といると思うので、私の悪妻術はちょっとは参考になると思う。