杏梨 ピアノソロライヴ  2018/07/26 @高円寺カサエスペランサ

杏梨 ピアノソロライヴ  2018/07/26 @高円寺カサエスペランサ 20:00start

1.Tango de Jerez
2.Gallardo
3.Semblanzas de in Rio
4.Guajira
5.Malagueñas

1曲目はTango de Jerez(タンゴ・デ・へレス):タンゴ
arturo pavon(アルトゥーロ・パヴォン)のピアノソロの曲からお届けしました。

歴代のフラメンコピアニストでは1番古株とされるパヴォンは、カンテ歌手であるManolo Caracol(マノロ・カラコール)の伴奏を多く手掛けています。伴奏スタイルのピアノが多くありますが、数曲ソロも出しています。

パヴォンはniña de los Peines(ニーニャ・デ・ロス・ペイナス)の甥でもあり、そのペイナスの歌い方に演奏が似ています。

今回、杏梨がソロピアノライブで演奏した、Tango de Jerez(タンゴ)は、現在タブラオでの公演などでよく演奏される、tiento(ティエント)の、伴奏のスタイルと同じです。今回、曲名をtientoではなくtangoとしたのは、パヴォンが活躍していた当時は楽曲ごとの呼び名が今のように細かく分かれていなく、ティエントも全部タンゴの部類に入っていたと言われているために今回はそれに倣った、とのこと。

参考リンク
arturo pavon(アルトゥーロ・パヴォン)


Tangos. Arturo Pavón. 1997

Manolo Caracol(マノロ・カラコール)


Manolo Caracol (cante), Arturo Pavón (piano!) & Melchor de Marchena (toque) – Zambra / cc Español

niña de los Peines(ニーニャ デ ロス ペイナス)


Pastora Pavón LA NIÑA LOS PEINES Tangos flamencos "A mi mare abandoné"

2曲目は、Gallardo(ガジャルド):ルンバ
パルマに松島かすみさん、小松美保さんを、パーカッショニストに容昌さんを迎え、
日本にもよく来日している世界的に有名なフラメンコアーティストDavid Peña Dorantes(ダビ・ペーニャ・ドランテス)の曲を演奏しました。

ドランテスはジプシーギタリストのペドロ・ペーニャを父に、歌手のレブリハーノを叔父に持つ血統・由緒正しい、レブリーハのフラメンコ一族出身です。

通常フラメンコの楽曲は口伝で伝えられるため、楽譜が存在しないので、ピアノで演奏する際はまず楽曲を聞いてそれを起こすという作業から始まりますが、杏梨が2016年にセビージャに行って彼のレッスンを受けた際、ドランデスから貴重な楽譜を頂いた、とのこと。その中から今回は2曲が演奏されました。

1998年に爆発的にヒットした彼のファーストアルバム、「Orobroy(オロブロイ)」の中からお届けしました。

参考: Dorantes - Orobroy


Dorantes - Orobroy

3曲目、Semblanzas de in Rio(センブランサス・デ・イン・リオ)
これもまた同じく、ドランテスのアルバムOrobroyの中から、彼の楽譜の協力もあり、今回の演奏が実現しました。

参考リンク: David Peña Dorantes


SEMBLANZAS DE UN RIO

4曲目 Guajira(グアヒーラ)

今回のライブの目玉、実はこのグァヒーラです!

杏梨は今回、1900年初頭のSPレコードの音源El Mochuelo (エル・モチュエロ)聴いて研究して作った、とのこと。

モチュエロは、アントニオ・チャコンとほぼ同年代で古い時代のフラメンコの中でSPレコードを非常に多くの録音を残した売れっ子です。

演奏は、軽快な容昌のボンゴによるソロパートからはじまりました。

時にユーモラスな駆け引きや遊びの要素も織り交ぜながら、ピアノとパーカッションのセッションが繰り広げられました。1900年代初頭の古いフラメンコスタイルであるグアヒーラの魅力をたっぷり味わえる独自の構成です。杏梨は「嘆きや悲しみを表現するのが多いフラメンコの曲の中で、このグアヒーラにはジプシーの明るさが際立つ。それを表現したかった」といいます。

参考: ANTONIO POZO EL MOCHUELO CANTA POR GUAJIRAS


ANTONIO POZO EL MOCHUELO CANTA POR GUAJIRAS

5曲目 Malagueñas(マラゲーニャ)

マラゲーニャはフラメンコの古い楽曲ですが、「歌い手によって全く雰囲気が違うのでピアノ用に編曲する際はとてもやりがいがある作業だった」という杏梨。

19世紀末から20世紀にかけて活躍したAntonio Chacon(アントニオ・チャコン)の唄とギターの楽曲をピアノの曲に起こしました。

「フラメンコらしい音を追求する」ために、ドランテスのアドバイスを受け、「今回のライブは電子ピアノということで、残響音(リバーブ)を極力抑えるなど工夫した」とのこと。

参考:Antonio Chacon Malaguena


ANTONIO CHACÓN: "si preguntan por quién doblan", 1925

はじめての音を味わう果てしない高揚感と、耳なじみのあるパロが全く違った印象として現れ、杏梨の緻密な作業と少年のような開拓者魂がそこに同時に存在してる、奇跡のような時間を味わうことのできた貴重なライブでした。

【レビュー:平澤晴花】

杏梨/今後の出演予定
9/2 DANZARTE スペイン舞踊公演 @中野zero小ホール
9/29 Nuevo viaje de piano ピアノフラメンコデュオライブ @南青山ZIMAGIN